短編集/コメディ系

大阪はるの陣 (関西ネタ)

     その国はもはや、他国からは見放され、切り捨てられた存在。
     国政は早くに崩壊し、ネット難民が街へと繰り出し、暴挙と暴言を繰り返す毎日。
     かつて繁栄を誇った中央都市が標的になったのは無論のこと、地方都市すら自治を保てなかった。
     そんな光明の無い時代に、一人の男が立ちあがった。
     胸には、七つの傷はないが、見事な金のビリケンさんバッジが輝いている。
     その男は、今日も己が制圧した街を、彼の居城である通天閣から見下ろす。
     彼の傍にひざまずき、片手をついて指示を待つ男が二人いた。
    「どうだ、様子は」
     従者に問う、凛とした声が響く。

     長い黒髪を後ろで一つに束ね、馬の尾のように垂らす。青白く細い顔、その目元の傷の歪んだ瞼すら、美しさを引き立てる。不均衡の中の揺るがぬ強い視線に、側近は彼を見上げることなどできなかった。
     男は右手を肩から失くしていた。
     それは彼の作った巨大組織を崩壊せしめんとする反逆者による、卑劣な罠のせいだった。
     男が通う華やかな街で、いつも口にする茶だんごに毒を盛られたのだ。四肢の血流は淀み、特に治療の施しようがなかった右手は切り捨てるしかなかった。
     そんなどこに刺客の潜んでいるか知れぬ街に、毎夜男は通う。
    「あらあ、また来てくれはったん?」
     その言葉を聞くために。

     この街の象徴と化した若く美しい指導者の、あまりに強い欲望への執念に、二人は崇敬の念を抱いていた。

    「富田林(とんだばやし)よ、SL学園の野球部はどうなった。報告せよ」
    「はっ」
     富田林はそのまま顔を上げることなく、床に叫ぶように大声で戦況を報告した。
    「よくわかった。では松屋町(まっちゃまち)、少年部隊構成に必要なおもちゃと駄菓子は手に入ったのか」
    「はっ」
     松屋町は滔々(とうとう)と生産状況を報告した。
     すると、突然一人の男が足音も忙(せわ)しなく、その場に飛び込んできた。
    「どうした、天下茶屋(てんがちゃや)、騒々しいぞ」
     美しき指導者は、天下茶屋のあまりに慌てふためく姿に、いぶかし気に目を細めた。
    「それがっ、ハローワークがたて続けに襲撃され……」
    「何者に!」
    「恐れながら、USJとひらパーが同盟を結んだ模様で」
    「なんだと! それでは我々は包囲されたも同然ではないか!」
     男の凄まじい怒号に、天下茶屋はひれ伏した。
    「し、しかし、中百舌鳥(なかもず)さま……我々も」
    「ええい、言い訳は聞かぬわ!」
     中百舌鳥は天下茶屋を蹴り飛ばした。
     三人は彼の怒りに、頭を床に擦りつけた。
     その様子をしばらく黙って見ていた中百舌鳥だったが、溜息をついて言った。
    「まあ、良い。今は奴らの動きを静観するしかない。それしかできまい? 常より条約を結んでいる、姫路セントラルパークと白浜アドベンチャーワールドにはもう、当然支援要請を送ったのであろう?」
    「はい」
    「では、待とうではないか。天が、我々に命を下すまで」
    「はは!」
     中百舌鳥は、ゆっくりと歩き出す。
    「行くぞ」
    「どちらへ……」
    「梅田に決まっておる」
     三人の従者は顔面蒼白となり、体が震えた。
    「では、では、阪急電車で……河原町へ……?」
    「当たり前だ」

     従者らは思った。
     この戦乱の世で、ここまで大きな器の男は見たことが無い。
     どれほどの血が流れるかわからぬ状況にも動じず、また茶だんごを食いに行くとは。
     食うのは茶だんごだけで済めばよいが、いつ寝首を掻かれるかわからぬ場所へまた立ち向かうというのか。
     我が指導者ながら、恐ろしい。
     恐ろしいオトコだ。


    <END>



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