相似

#6 12月16日土曜日

     12月上旬は試験期間で、部活動は控えることがきまりになっている。
     そして、この日は試験開けの土曜で、部活動の再開される日だった。
     バスケットボール部に所属している早采は、早朝から母の作った弁当を持って登校しており、寿友が目覚めた時にはもう姿がなかった。

     広い屋敷には寿友以外、誰もいない。
     新しい父は仕事なのか付き合いなのか、土日と言えど、朝から晩まで姿を見せない。
     母の方はといえば、間違いなく、寿友と二人きりになるのが嫌で何か用事を作って出かけている。

     手伝いは10時頃来て、5時過ぎに帰ってゆく。
     彼らは部屋の掃除や洗濯などが仕事で食事作りには手を出さないように言われている。
     そのため、手伝いの数名の男女が寿友に何か好みを聞くようなこともなく、会話は生まれない。
     黙々とベッドのシーツを替え、窓を拭き、カーテンを洗濯し、床を掃く。

     それがこの赤撞家の日常で、寿友は異分子としてフワフワと宙に浮いているような気になる。
     居ても居なくても、誰も何も言わない。
     そんな何も無い空間で思うのは、実父のことだった。

     寿友は与えられた部屋のベッドで横になり、カーテンを閉めたままうっすら光が入り込む窓を見ている。見開いたままの瞳、寿友の両目は時を遡(さかのぼ)って狭いマンションの一室を見つけ出す。



     何も無い部屋に、痩せこけた男が一人、薄い布団の上に寝かされていた。
     顔に白い布を掛けられ、ピクリともしない。
     誰かが置いていった香炉に、刺されて立つ線香が、一筋の白い線を上へと逃してゆく。
     父は病気で亡くなった。

     亡くなるだろう気配はなんとなく伝わっていたが、別れというものは不意にやって来る。
     中学3年の春、学校の帰りに父のマンションに行った時、すでに父は硬くなっていた。
     自分が死んだ後のことは何一つ寿友に伝えず、書き記すこともせず、気付いた時は寿友との繋がり全てを消すかのように、整理されていた。

     それが寿友と、寿友の母に対する愛であり、憎しみだったのではないか。
     寿友は答えを見つけられないまま、母の元へ戻った。

     母は仕方なく寿友を受け容れる風を装った。
     母親のような顔をして見せた。
     罪悪感と鬱陶しさと苦しみと反発と抵抗と悔しさと……。
     そんな感情を腹に抱えているはずだが、寿友の顔を見て、
    「帰って来てくれてありがとう」
    と、言葉をぽつぽつと落とす。
     まるで赤い口紅が話しているように、表情は動かなかった。

     あの日以来、寿友は母の傍で暮らしている。
     母が『母のやり方』で生きて行くのを、自分は他人のフリはできずに共犯として生きて行く。



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