相似

#5 12月15日金曜日

     寿友は千郁から紙袋を受け取って家の中に戻る時、郵便受に、宅配業者が残していった不在配達票を見つけた。手に取り、何とは無しに目で文字を追う。

    [受取人:赤撞早采様
     差出人:△△教販㈱様
     荷物:教科書……午後6時配達
     受け取り方法:再配達のご希望時刻……]

     まだ5時過ぎだというのに、宅配業者は自分の都合で早めに配達に来たようだ。
     寿友はその伝票をまた郵便受に戻して家の中へと入ろうとした。
     その彼の背中に、門を隔てて、千郁が声をかけた。
    「あのさ、ジュウくん、英語の成績がすごく良いって聞いたんだけど」
     寿友は立ち止まり、少しだけ顔を仁科千郁の方へ向けた。
    「もし良かったら、英語クラブに入らない? 英語クラブって言っても、ただ日本語禁止で雑談するだけで、学校でお茶したりお菓子隠れて食べたり、たまに映画とかみんなで観に行ったり……」
     寿友は踵を返すと、再び門までゆっくり歩いてやってきた。
     そして千郁の前まで来て真顔で言った。
    「ほら、そこに、雑草生えてるだろ」
     千郁の立つ道はアスファルトで舗装されていたが、その割れ目から草が生えているのを、寿友は指でさし示した。
    「ん? うん」
     千郁は、言われるまま、そのしっかり根を張った雑草を見つめた。
    「今は、葉っぱだけだな、冬だし」
     そう言うと、寿友は門から出て来て、その雑草を踏み折った。
    「こうして踏まれて枝葉がすり潰されても……春が来たら、普通に花を咲かせると思うか?」
    「……咲く……んじゃない?……。結構強いでしょ、雑草ってさ」
     千郁は戸惑いながら、返した。
     しかし、寿友は彼女の顔をじっと見てからにやっと笑った。
    「あんたは、俺のことを、そういう『雑草』だと思ってるんだろ?」
    「えっ……」
     千郁は唖然とした。
     学校では普段、誰とも話そうとしない寿友が、ここぞとばかりに言葉を吐き出す。
    「……つまり、こういうことだ、まともに読める教科書も無い、学校へ行く意味も無い、誰もが話するのを避ける、それでも凹むことなく毎日学校へやって来る無神経な雑草だと。踏んでも踏んでも図太く花を咲かす雑草だと」
    「そんなこと思ってないよ?」
     目を大きく見開き、必死で首を横に振るが、千郁の誘いは突っぱねられてしまった。
     千郁が黙り込んだので、寿友は少し間を開けてから言った。
    「……なんで『雑草』が英語を得意なのか、興味あるんだろうけど。とりあえず、これ持って帰って」
     困惑する千郁の前で、さっき千郁から受け取った紙袋を彼女の足元にドン、と置いた。
    「授業に出ても、どうせ教科書は見てない」
     呆然とする千郁を振り向くこともせず、寿友は、門に施錠し家の中へ入っていった。

     仁科千郁は足元の紙袋の前でしゃがみ、がっくりと肩を落とした。
     暗いし、寒い。わざわざ来たことに、ありがとうも言ってくれなかった。
     言い方とかタイミングが悪かったのかもしれない。
     それは少し反省する。
     でも、心配してあげたのに、あんな言い方酷すぎる。
     どうせ学校でも家でも独りなんでしょ?
     どこにも居場所がなさそうだったから、誘ってあげたのに。
     ちょっとくらい感謝しろよ。



    次の話へ≫ / 小説一覧に戻る≫

入口に戻る≫ / このページのトップへ▲