相似

#3 12月15日金曜日

     初田暎(はつたあき)はバスから降りると、赤撞早采と待ち合わせている店へと急いだ。
     普段、学生服とリュック姿でその店に入ると何かと嫌な顔をされるのだが、早采が先に待っていれば大丈夫だ。
     その小さなジュエリーショップは昔からこの土地で営業している老舗で、高級品を多く扱う。そもそもジュエリーショップと呼ばれているのは最近改装したせいであり、今現在も看板はA貴金属店である。
     なので、学生のように金にならない客は上手く追い出されてしまう。もっと安いものを売っている店へ行けと言いたいらしい。
     暎が、そろそろと店の外から中を覗いていると、不意に扉が開いた。少し年配の女性の店員が、その重い扉を半分だけ支えるようにして開けている。店員は暎の前に立ちふさがり、見下ろしていた。
    「何かご用でしょうか」
     クリスマスが近いこの時期の夕刻、冷やかしに近い客は困るといわんばかりの目つきをしている。
     ふつうなら、いらっしゃいませだろ、と暎は思いながらも、笑って答えた。
    「ここで赤撞くんと待ち合わせてるんだけど」
     店員はピクと目元を動かしたが、大して表情も変えずに、後ろへ数歩下がり、暎を店内に招き入れた。
    「どうぞ」
     店の中に進むと、既に早采が店員の勧める商品を手に取っていた。彼は暎に気付くと、いつものように静かに笑う。ちょっと坂口健太郎に似た切れ長で垂れた目が優しくて可愛い。
    「暎はどれが好きかな。どれも全部かわいいよ」
     明るい早采の声を聴きながら、暎はひとしきり優越感に浸る。
     店員も客も大人ばかりの中、痛いほど視線を浴びていた。
     気持ちいい。まるで女優になったような気分だ。決して自分が制服姿だから見られてるんじゃない。自分の彼が赤撞早采だからだ。
     何しろ早采は、この街で知らぬ人がいないほどの有名人。
     早采の父や祖父は、近隣の山という山はすべて持っており、元々は人に土地を貸し与えていたらしいけど、徐々に金融事業でのし上がり、次第にクリーンなイメージ欲しさに市議会議員にまでなった。
     何かあったなら、赤撞の家に頼みに行けばなんとかなる、と言われているほど地元では絶大な富と権力を持っている。
     彼はそんな人の息子であり、雲の上の階級の家のお坊ちゃんだ。

     暎にとってみれば、早采に買ってもらえるなら何だって良かった。ただ傍を歩いているだけでもいい。彼女と認定されているだけで十分すぎるほどだ。
    「ありがとう、サトル」
    「クリスマスにちゃんと、ほかのプレゼントと一緒に渡すから、楽しみにしててよ」
     早采はそう言って暎と手をつないだ。彼は彼女の耳元でこっそりと囁く。
    「今日、親いないから、うちに来ない?」
     暎は言われて頬を染めたが、すぐに顔を強張らせた。
    「あ、……でも、私。ちょっと……」
    「え? なんか用でもあるの?」
    「ううん、オトートが苦手っていうか……」
    「弟?」
     暎は思わず体を震わせた。

     あの、光を吸い込んでしまいそうな暗い瞳と、ボロボロの肌、薄く笑う大きな口。
     土色に灼けた顔や首や手など、露出している部分の、無数の黒い傷痕。
     並びの悪い歯と、異様に赤い舌。
     どれか一つでも思い出すだけでトリハダが立つ。
    「……私、あいつに会いたくないの。キモイ……」
    「え?? ……まさか、……ジュウのこと?」
     驚いて目を見張る早采に、暎は恐る恐る頷いた。
     早采は必死になって、顔を横に振り続けた。
    「どうして、違うよ、ジュウはそんなヘンなヤツじゃないよ。ちょっと人と付き合うのが苦手がなだけで、悪いやつじゃないんだよ……!」
     早采がどれだけ説明しても、暎は家に訪問することを拒否した。
    「隠し撮りとかされそう……」
     暎は薄汚いものを想像するかのように、視線を下げて苦い顔をした。
     立ち止まった早采は、どんな言葉も通じない彼女に困惑した様子で、肩を落として俯いていた。



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