短編集

【構成】
1話完結、前後編、3話完結など。各話3000〜5000字程度。

 

●目次●

コメディ系
  ● 残念なキューピッド 前・ / ● 七夕の夜はブラック 前・ / ● 大阪はるの陣(関西限定) /
青春・学園モノ系
  ● カケオチ’17 / ● ストーブ 前・ / ● 麗しのへそ曲がり /
恋愛・甘々系
  ● それは今だよ / ● いちごショートの願い 前・後 /
不思議・シュール系
  
● 怖い夢 / ● 家族のもめごと /
現実・社会系
  
● 幸せに向かわない直線 /
 
怖い夢 (1話完結)

 夢オチってよくありますよね。


 僕の名前は大杉健太だ。
 こんな平凡な名前だが、実は、とんでもない天才なのだ。
 日本で一番と言われる某国立大学も、あら、いつから誰でも入れるようになったんだろう、と思うくらい幼稚な問題が並んでいた。
「大杉くんっていうより出木杉くんだな」
 もう、そんなつまらないことを教授に言わせてしまうほど、罪なヤツなのだ。
 IQで言うと、500くらいあるとかないとか。並みの検査では計れないらしい。
 ここまで知能指数が高いと、脳の使用率も高いのだと推測する。
 勉強だけでなく、身体能力も高い。反射神経はいいのだから、体を鍛えさえすればオリンピックで金メダルは間違いなしだ。
 脳には解明できていない部分が多いが、きっと僕が全て解明するだろう。時間の問題だ。
 企業の研究チームで引っ張りだこ。月に1億2億など当たり前。運転手付きの高級車を乗り回す。たとえイケメンじゃなくても、女なんてより取り見取り。
 研究の傍ら、遊びまくる。美人さんにいろんな事をしてもらえる喜び。
 でも、残念ながら、僕は人間じゃないのだ。
 宇宙の平和を守るためにやって来たスーパーマンだ。なーんて、人に言うと真に受けるヤツもいるから面白い。


 ただ、僕はあまりに天才過ぎて、ある国家的謀略に巻き込まれてしまった。
 やってもいない殺人犯に仕立て上げられてしまった。


 それは思い出しても恐ろしい情景だった。

 僕は誰かに強い力で背中から口を塞がれ、意識を失った。
 こんな原始的なやり方で捕まえられてしまうなんて、恥ずかしすぎる。この最高の脳でも背後の気配に気付かなかったとは。最高の女とアレコレやっている最中というのは、残念ながら脳も集中してしまう瞬間がある。それは致し方ない。アノ瞬間だけは、頭も真っ白だ。男なのだから。
 まさかとは思うが、ハニートラップ?
 それにしても、入口で待たせていた僕のボディガードは何をしていたんだ。

 そんなことを一瞬で考えたが、すぐに意識は消えた。
 目覚めると、僕の部屋にいた。
 厳重なセキュリティで僕以外の人間は誰も入ることができないはずなのに、一体誰がここに僕を連れて来たんだろう。僕は痛む頭を抱えるように立ちあがった。
 寝室のドアが開いていたので、おかしいなと思い近づいた。
 するとそこには、さっきまで僕のお相手をしてくれていた女が、寝そべっていた。
 血まみれで。

 うわあっ。死体だああ。
 ヤバい、逃げなくては!
 僕はとにかくすぐに家から逃げた。
 もう、どこをどう逃げたのかわからない。後ろからはよく分からない黒ずくめの拳銃を持った男たちが僕を追いかけ続ける。
 でも、オリンピック並みの身体能力は、こういう時に役に立つ。筋力が追い付いていないので、体がバラバラになりそうなくらい辛いが、あっという間にビルを越え、月に届くくらいのジャンプ力。
 フッと笑って、下で悔しがって僕を目で追うしかない男たちを見下ろす。

 しかし、そんな僕でも、軍隊蟻かと思うほどの数の人間に囲まれては、逃げ場所が無くなった。仮想空間に住んでいるわけではないので、囲まれた相手の拳銃の弾を避けることはできない。
 身をひるがえして避けたのだが、腹に数発受けてしまい、その場で蹲る。
 僕は高いビルの上で大量の血を流し、フラついていた。周囲のビルというビルににスナイパーがいるのが分かる。
 誰か助けてくれ!!
 死にたくない!
 あれは僕が殺したんじゃない!!!



 気が付くと、僕はベッドの上にいた。
 夢か……。また、あの怖い夢を見た。もう、何度目だろう。
 僕が目覚めると、優しい兄が食事を運んで来てくれるところだった。
「いつもごめんね、ありがとう」
「いや、なに。具合が悪いんだから、しょうがない。早く病気を治せよ」
 そうだった。
 僕は遺伝子の病気で治る見込みがないと言われている難病が発病してしまった。ここは病院の中。自宅のベッドとは違って、硬くて冷たい。あの夢に出てくる僕は、あんなに元気なのにな……。
 兄は、部屋にいる医師と話をしていた。
「まだ、望みはありますよね?」
「努力はしますが……。まだ治療法も確立していない病気なので……」
「とにかく、絶対に助けてやってください」
 兄は医師に深々と頭を下げていた。


「いいか、絶対病気なんかに負けるなよ?」
 兄が優しい口調で僕に話しかけた。
「ありがとう」
「おまえが死んでしまったらみんな悲しむ。頑張って元気になろう」
「うん。でも、覚悟はできてるから……」
 兄はため息をつきながら言った。
「そんなこと言うなよ、がんばれ、弱気になるな!先生がぜったいに助けてくれるから!」
「助かるかな……?」
「どんなことしても絶対助けてみせる! 病気なんかで死ぬな!!」
「兄さん……」
 僕の兄は照れくさそうに笑う。
「兄さんなんて呼ぶなよ、3041号」
「ごめん、看守さん……」
「遺族の方はおまえが元気になって死刑執行されるのをずっと待ってるんだ。簡単に死なすわけにはいかないんだよ」
「でも、冤罪なんだけど……」
「もう、殺したとか殺してないとか、関係ないんだよ」

「そうだったね。僕、あの怖い夢のような1年前の自分には戻りたくないよ……。病気に侵される前に、僕の脳、ちゃんと使ってね」




<END>
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家族のもめごと (1話完結)

 家族というのは、なんだかんだ言っても強い絆で結ばれているものだ。
 しかし、この神部(カンベ)家だけは例外である。毎日険悪な雰囲気が漂っていた。
 この日曜も、長男の舵(カジ)、次男の活矢(カツヤ)、長女の桂子(ケイコ)はダイニングテーブルについて睨み合っていた。

「活ニイ、のろい。さっさと食べなさいよ、ダラダラしてんの見てるとたまんなくイラつく!」
「そんなこと、言わないでよ桂ちゃん……」
 活矢は上目遣いで妹の桂子を見た。
「キモい、キモいっつーのよ!!」
 活矢は桂子に容赦なく頭を殴られていた。
「コラ、桂子一番年下のくせに偉そうにすんな! おまえには前から言っておきたかったんだ。陸上も水泳も適当にやりやがって、高校生活っていうのはな、もっとストイックに……」
 既に成人している長男の舵は、朝っぱらから日本酒を飲んでいるという態度でありながら、妹を叱りつける。桂子は長兄に言われてビクッと俯いた。
 活矢はさっきまで凹んでいたにも関わらず、低い声でそこに割って入る。
「舵ニイ、それは飲んだくれてるヤツの言うことじゃねえ……」
「そ、そんなこと言うけどな、おまえ、勉強教えてやったじゃねえか……兄貴を少しは尊敬したっていいんじゃねえか……?」
 舵にとって活矢は、いつだって正体不明でなんとなく好きになれない。
「尊敬? 笑わせるな。そうやってネチネチ言う陰険な性格なんとかしろ」
 3人は互いに睨み合って黙り込んだ。

 この兄弟は、いつもこんな調子だった。
 あまりに兄弟喧嘩が絶えないので、父である神部健地(カンベケンジ)はがリビングから声をかけた。
「おまえたち、少しは相手のことを思いやって仲良くしなさい」
 年齢を重ねた貫禄のある、ダンディな父の声に、3人は一旦喧嘩をやめた。


「父さんって、いいわー。癒し系だよねー」
 桂子はうっとりした顔で父親を見つめた。
 舵は、そんな桂子を見て、ニヤリと嗤う。
「おまえ、近親相姦だけはやめろよ」
「きっ、きん……」
 桂子はあまりにも下品な舵の言葉に青ざめていた。
「てめえその、獲物を見るようなイヤラシイ目でほざくんじゃねえ。聞いてるこっちが不快だ」
 活矢がゆっくりと立ちあがり、舵の襟首をつかんだ。父が慌てて飛んでくる。
「やめなさいって言ってるだろ、おまえたち……。ご近所でなんて言われてるか知ってるか?」
「まあ……なんて言われてるの? パパ……大好きなパパが困る姿は見たくないわ」
 活矢が舵からそっと手を離し、父の顔を小首を傾げて見つめた。
 そんな、良く言えばジェンダーレスな活矢だが、桂子はその姿にどうもイライラしてしまう。
「だから、キモいって! 活ニイは口突っ込まないで、じっとしてればいいのよ!」
 すかさず桂子が活矢の頬を打った。反射神経が殆ど無い活矢は、それを避けることができず、情けない顔で桂子を見つめていた。

 父はため息をつきながら3人の顔を見た。
「いいかい、うちはご近所の方たちに、あの家には関わらない方がいいって言われてるんだよ。今に陰惨な事件が起こるに違いないってね。おまえたち、ワイドショーのネタになってしまうような恐ろしいことだけはやめてくれよ。頼むから仲良くしてくれ」
 優しい父の言葉に、3人は顔を見合わせてから、ムッとしてそっぽを向いた。
「やれやれ……」
 とうとう、父は切り札、オールマイティカードを3人に突きつけるしかなかった。
「おまえたち、母さんに言いつけられてもいいのか?」
「ゲッ!」
 3人は息を呑んだ。
 あの、ほぼDV、ほぼ虐待としか言いようのないお仕置きを行う母に、言いつけられては身が持たない。
「と、父さんそれだけは……」
「パパ、やめて……」
「父さん、ごめんね。おとなしくするから……」
 3人がおとなしくなったのを見て、健地は微笑んだ。
「よしよし、言いつけたりはしないが、いつ母さんが帰って来るかわからないんだから、いい子にしてなさい」
 父が去ったのを見て、3人はそれぞれ、2階の自分たちの部屋に戻っていった。
 母に見つからないように、身を隠すしかない。

 しかし、そんな3人だが、隣どうしの部屋にいると、どうしてもムズムズしてしまう。
 ついに舵が桂子の部屋のドアをバッと開け、長い舌で口の周りを舐めながら嗤った。
「桂子、いくら父さんが優しいって言ってもおまえなんか相手にしない。だから、オレがお前を食ってやるぜ」
 部屋にずんずん入って来る舵の手が、怯える桂子の肩を掴んだ。その時、舵の背後から活矢がそろりと彼の首を掴んで撫でた。
 よろけて身構える細い体躯の舵は、ひっそりと笑う弟に恐怖した。
「舵ニイ、頭から塩酸ぶっかけられて跡形もなく溶かしてほしいか」
「な、な、な、お、落ち着け活矢……」
 しかし、桂子は体育会系の性格が災いして、どうしても活矢のコロコロ変わる態度に吐き気がしてたまらない。
「活ニイ、運動能力皆無の変態のクセに、舵ニイにだけ強がるのやめなよ。カッコ悪い」
「そんな……桂ちゃん、睨まないで……怖いわ……」
 活矢は、しょぼしょぼと後退りした。

 突然、健地が3人のいる部屋に飛び込んできた。
「か、母さんが来るぞ!」
 3人は驚愕し、悲鳴を上げて各々の部屋に閉じこもった。
「あーーーんたたち!! また、貯金箱からお金くすねたでしょう!!」
 ドスドスと足音を響かせて、母が猛然と階段を駆け上がってきた。
 きゃーという3人の悲鳴が聞こえる。子どもたちの隠れているドアを一つ一つ叩きながら鍵を壊そうとする妻を見て、健地は言った。
「やめなさい。もうそれくらで許してやんなさい、風美(フミ)」
 母、風美は狂ったようにドアを叩きまくるのをやめない。もうこうなっては、いくら健地でも止めようがない。

 ひとしきり怒鳴り散らした風美は、どこかへと消えていった。多分また隣の家に行って鬱憤を晴らしているのだろう。健地は嘆息するしかなかった。そのうち気が済めば彼女の怒りもふわっと消えていくのだが。
 そこへ、絶妙のタイミングで健地の父と母が訪ねて来た。
「あんたも大変ねえ、健地……」
 母の神部月子が言う。
「ほんとうだな。いや、ワシらもみてるだけしかできないしな」
 父の神部陽介が言う。
 健地は頷いて言った。
「風美のご両親が、どうも風美を甘やかしてたみたいで……」
「ああ、海野(ウンノ)さんか……」
 陽介が苦笑した。

 そのころ兄弟たちは、父や祖父たちに隠れて、またダイニングルームに集まっていた。
 お互い、一定の距離を保ちながら牽制し合う。
「舵ニイ、お願いだから、そんなに赤い舌をチロチロさせて私のこと見ないで!」
「うるさい。それより活矢、頼むから塩酸持ってくんのやめてくれよ」
「いつも携帯してるんだ。それより、桂ちゃん、今にも飛びかかってきそうな顔すんのやめてよう……」
「だって、活ニイの性別不明の態度許せない。丸呑みしてやりたいわ」

 舵、活矢、桂子。睨み合うのはやめなさい。
 どこからか父の声が聞える。
 いい加減にしないと、私はおまえたちを見捨てるぞ?

 3人はハッとして、顔を強張らせた。
 父が……優しい大地のような父がいなくなっては、生きて行けない……。
 ヤバい。でも……。
 神部家の兄弟はじっと見つめ合ったまま、動くことができなかった。





<蛇足>
※この話、何が面白いのかさっぱり意味がわからない……という方だけ、よろしければ以下のヒントをご活用ください。
@『蛇 蛞(ナメクジ) 蛙』で検索してみると、三すくみという言葉があります
A舵・活・桂 の偏を全て虫偏に変えてみてください。
B人間っぽいですが、この家族は人間ではありません。



<END>
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